ご注意
まずこれをお読みの皆様にお願いですが、現在医療機関で治療を受けられている方は、必ずかかりつけの医者に相談の上お試しください。また、自己診断は禁物です。まず医療機関の診断を受けた上でご自分の体調を正しく把握してください。
 ペルーのマチュピチュへの私の最初の旅は信頼できる同僚の一人とでしたが、彼には「うつ病」で打ちのめされたエピソードを持つ経験があったのです。古典的な「うつ」症状は、深い絶望感、救いようのない希望のない感覚、集中力の低下、食欲の減退、習慣的な不眠と胃腸トラブルそしてごく普通の楽しい活動から得られる喜びの亡失などで、彼の試した現代医薬品は全く役に立ちませんでした。彼からのごく普通の質問に私は緊張して身構えていました。「なにか役に立つハーブを知らない?」彼が訪ねた時、普通ならばごく自然に「もしも私が、うつ状態になってしまったらセントジョーンワートを試してみるよ」と答えたと思います。でも、私はあえて彼には「リコリスだよ」と言っていました。両方のハーブとも「緑の薬局」では3つ星のチャンピオンなんです。
うつ症状のための緑の薬局

 誰でもが時には憂うつになることはいわずもがなのことですね。しかし、うつ症状になることは深刻な病気なのです。もしもうつ状態が進行し、苦痛な状態ならば医者の治療を受けるべきです。それまでは、症状の改善の助けになるたくさんのハーブを試してみてはいかがでしょうか。
"★"の数は効果の高さの指標です。
トピック
★★モノアミン酸化酵素(MAO)抑制体に注意★★
 モノアミン酸化酵素(MAO)抑制体物質を積極的に摂取しているかMAO抑制体物質を含むハーブを使っている人は、日常的に特定の食べ物や医薬品を避ける必要があります。避けた方がよい食べ物にアルコール飲料やくん製や酢漬け類です。また風邪薬や花粉症の治療薬、アンフェタミン、麻薬、トリプトファン(精神安定剤)、チロシンなどです。
★★★リコリス(Licorice/ Glycyrrhiza glabra カンゾウ、甘草)
 私の持っている資料ではこのリコリスほど抗うつ作用のある成分を含む植物は、ただ一つ古くから抗うつ症状の改善に使われてきたセントジョーンワート以外にありません。不思議ですね。少なくとも8種類のモノアミン酸化酵素抑制(MOA)効果のある成分を含み、これらは抗うつ作用の効果のある物質として働くのです。うつ状態を乗り越えるためにリコリスを試して見たければ、この章で掲載してあるいろいろのハーブに加えてお試しください。(リコリスやそのエキスを一日お茶で3杯程度を使用する程度ならば安全な範囲ですが、長期間多量の服用を続けると副作用が出てきます。症状として頭痛、無気力、カリウムの消耗、高血圧、ナトリウムと水分の滞留があります。)
★★★ セント・ジョンズ・ワート(St.-John's-wort /Hypericum perforatum セイヨウオトギリソウ)
 このハーブには6月24日のセントジョンズの記念日に咲く花という意味でこの名前が付けられました。(ワートとは古英語で“植物”の意)つぶすと赤くなる星形の黄色い花をつける美しい植物は憂うつな気分をとばしてくれる素晴らしい力を持ちます。民間療法として長い歴史を持ちとくに不安感や意気消沈した時などによく使われてきました。
 近代化学はこの民間療法が正しかったことを証明したのです。臨床試験でこのハーブに含まれる成分の一つ、ハイペリシンを抽出して治療に使ったところ、結果は患者の不安感やうつ状態、うち沈んだ感情を非常に改善したのでした。別の研究では通常使われている抗うつ剤の医薬品アミトリプチリン(商品名:エラビル)やイミプラミン(商品名:トフラニール)よりもより強力な抗うつ作用を示しました。しかも、医薬品よりもずっと副作用が小さかったのです。中には「副作用は全く認められなかった」という研究者もいます。
 いろいろな研究でセントジョンズワートは危機的なうつ状態に陥っている人々の最大の悩みの睡眠の質を高てくれることを明らかにしました。ドイツの研究の中で105人の中程度のうつの患者にセントジョンズワートを投与したところハーブを摂らなかった同様の患者グループと比較して、よく眠ることができるようになり、さらに悲哀や無力感、絶望感、疲労感や頭痛を表すことが少なくなりました。しかもハーブを摂取したグループは全く副作用を感じなかったと報告さたのです。
 ハーブの持つMAO抑制体物質の働きのせいにする科学者が居る反面、その働きを軽視する研究もあり、メリーランドの国立メンタルヘルス研究所のジェリー・コット博士は「オトギリソウ族のハーブは抗うつ効果のトップであるのに我々が考えていたほどMAO抑止体の効果は大きくはなかったという研究も出ているのですよ」と述べています。コミッションEというドイツ政府厚生省に“ハーブの安全性と有効性”の専門的アドバイスを提言する科学者集団は抗うつ症状の治療にセントジョンズワートを使った症例が大変多く集まっているそうです。
 このハーブをお試しになりたいときには沸騰した湯カップ一杯の中にティースプーン1,2杯のドライハーブを入れて10分ほど置いたものを飲用します。セントジョンズワートの一番効果的な飲み方は6週間の間、毎日カップ1,2杯のこのハーブ茶を飲むと良いと、インディアナ州プルド大学の学長で医学博士のヴァロ・タイラー博士は述べています。タイラー博士は又、このハーブに含まれる数種の成分の働きにより、中程度のうつ症状の改善に効果があるとも言っています。この数種類の成分がそれぞれに抗うつ作用の効果をもつので全体の副作用が小さいということなのです。
 妊娠している方はこのセントジョンズワートは飲まないようにして下さい。また、皮膚が太陽光に敏感になるので、強い太陽光に当たらないようにして下さい。
★★ジンジャー(Ginger /Zingiber officinale ショウガ)
 この気持ちを高揚させる香りに加えて、いろいろな抗うつ効果のあるハーブとは大変に相性が良いのです。ジンジャーには古くからの民間療法に取り入れられて来て、不安感やうつ症状の治療に使われその評判が私を信じさせたのです。
★★ パースレイン(Purslane/Portulaca oleracea スベリヒユ)
 ちょっと落ち込んだりすると食べたくなるものがありますよね。それを食べると楽になりそうな気がするーーそれがあなたにとって必要な食べ物なのです。
 食べ物に含まれるミネラルのマグネシウムやカリウムは抗うつ作用を持つことが明らかになっています。これらのミネラルが大変豊富なパースレインは他のカルシウムや葉酸、リチウムなど抗うつ作としての価値がある成分も豊富なのです。実際、パースレインは乾燥した状態で16%もの多くの抗うつ作用成分を含有します。わたしのデータベースによると、パースレインはうつ症状を軽減する効果を持つサラダの材料として日常に使えることがわかります。
 だから、私の特製“抗うつ・サラダ”には、レタス、ピッグウィード、パースレインやシロザ、クレソンをたっぷり使います。それにドレッシングにはタイムを少々使うことも忘れません、このハーブにも抗うつ効果のあるリチウムというミネラルが多く含有しています。
★★ローズマリー(Rosemary /Rosmarinus officinalis マンネンロウ)
 ローズマリーの精油はアロマテラピストの中でも沈んだ気分の時に好んで使うものです。植物オイル又はマッサージローションにローズマリーのオイルを数滴落としてマッサージすることは害になることはまずありません。成分のシネオールには神経の中枢システムを活気づけることが明らかにされています。
 アロマ療法士が勧めるうつ症状を改善するその他のハーブオイルにはベルガモット、バジル、カモマイル、クラリセージ、ジャスミン、ラベンダー、ネロリ、ナツメグとイランイランなどがあります。これらのハーブオイルは外用(マッサージまたは蒸散したものを吸入する方法)のみに使うことで決して飲用してはいけません。
★ ギンコー(Ginkgo/Ginkgo biloba イチョウ)
 いろいろの研究でわかったことはギンコーにはうつ症状を軽減する助けをすること、特に脳内の血流が低下したかなり年配の人に顕著な効果を示すようです。ある研究で、ヨーロッパの科学者達が医薬品では改善しなかった大脳内の血流にトラブルのあるうつ症状を伴う40人の年配の人たちの協力を得た実験を行った時のこと。研究員は一日3回80ミリグラムのギンコーエキスを投与し続けました。結果は彼らのうつ症状と知的能力共にかなり顕著に改善されたのです。実際、ヨーロッパでの研究ではギンコーの葉から抽出した標準的なエキスを使い、加齢に伴う物忘れや記憶の喪失や血液循環能力の低下などいろいろの症状の改善に使われていることを確認されているのです。
 標準的に使われるギンコーの量は、50:1の濃縮率、つまりギンコーの葉50に対して抽出エキス1のものを言います。このような50:1のエキスは健康食品店で入手可能です。ギンコーをお試しになるときには、この方法が良いでしょう。毎日60から240ミリグラム程度が適量、これより多くしてはいけません。大量のエキスを摂取すると下痢や落ち着きが無くなり興奮しやすくなります。
★シベリアン・ジンセン(Siberian ginseng/Eleutherococcus senticosus エゾウコギ)
 近種のヘッジング・エリューセロコカス(ヨウシュエゾウコギ)も研究の対象になっています。動物を使った研究では、シベリアン・ジンセンにはMAO抑制体のような働きをすることが明らかになりました。うつ症状の人の中には、このハーブで患者の幸福感を改善する効果を見せるときがあります。このハーブのカプセルになったエキスを使っても良いですね。
 このような働きのあるハーブには他にキャラウェイ(ヒメウイキョウ)、セロリ、コリアンダー(コエンドロ)、フェンネル(ウイキョウ)とナツメグ(ニクズク)があげられます。これは本当の朝鮮人参ではありませんが、同様の薬効を持つのでアメリカではしばしばこれが使われます。
★ビタミンBの豊富な食べ物
 神経伝達体を正常に保つために栄養士は規定のビタミンB(葉酸、ビタミンB6とB12)をしっかり摂るように勧めるでしょう。
 シロインゲンマメ、ブチインゲンマメやアスパラガス、ホウレンソウ、ブロッコリ、オクラなどは葉酸が豊富なものです。ビタミンBに関する限り、含有量が高いのはカリフラワー、ウォータークレス(クレソン)、ホウレンソウ、バナナ、オクラ、オニオン、ブロッコリ、カボチャ、ケール、エンドウ豆や大根などです。それに更に食事にアミノ酸フェニルアラニンを加えるとよいですね。
 ある研究で、重いうつ症状をしめす人たちにフェニルアラニンとビタミンB6を補給したとこと75%もの人が急速な改善を示したと言うことです。私はたべものから栄養素を摂取した方が良いと考えている人間なので、お勧めしたい食べ物として4種類、ヒマワリの種子、キササゲ、ウォータークレス、大豆を記しておきます。いろいろの料理に使っていただきたいと思います。
トピックス★★トリプトファンの引き金★★
 たべものから摂った栄養素でうつ症状を追放することは可能でしょうか?
 ここで少し生化学の世界を覗いてみましょう。身体は食事から取り入れた炭水化物の砂糖やでんぷんをグルコースに変化させます、この砂糖の形を通常“血糖”と呼びます。グルコースは膵臓からインスリンを放散する引き金になります。同様にインスリンは、セロトニンと呼ばれる神経伝達体を生産する原料のアミノ酸トリプトファンの脳内レベルを上昇させます。脳内神経伝達体の化学物質は神経細胞同士のコミュニケーションと働きを正常に保つために使われます。高レベルのセロトニンは大変特徴のある効果を顕わします:脳内の神経伝達体は気分を向上させ幸福感と満足感を強調させることなどです。
 このロジックをもう一歩踏み込んで考えると、高炭水化物の食事はうつ症状を乗り越える可能性が高いように見えます。別のある研究ではそのことが言えるような結果が出ているのです。
 高炭水化物系のビスケットを食べたあと、禁煙を始めたり月経前症候群の女性達のイライラ症状を含む中程度のうつ症状の人たちに、よりゆったりした気分が感じられたというレポートでした。だからもっとビスケットやベーグル(ロールパンの一種)、パスタなどを食べてみて気分の高揚を感じられるか試してみましょう。トリプトファン食品ももっとたくさん摂ってみましょう。ヒマワリの種子、カボチャの種子、メマツヨイグサの種子は気分をよくするアミノ酸を豊富に含んでいます。
 ところで、体内のセロトニンの総量を高めることは、抗うつ治療の認められた医学的なアプローチなのです。プロザックという一般的な抗うつ剤は、身体のなかのセロトニンのレベルを保つことを助ける働きがあるのです。